
Popsicle report2022
20220417
もし、「虹のコンキスタドール」のファンになるとしたら、根本凪さんのファンとしてだろうな。
ずっとそう思っていた。それなのにリリースイベントに数回行った以外は、虹コンのライブに足を運んだことはついぞ一度もないままだった。映像をみることもなく、友人からLINEでこれ聴きなよと送られてきた「奇跡100%」だけを、ここ2年ずっと聴いていた。
根本さんが4月17日に虹コンを卒業することが発表され、いよいよ見に行く機会がなくなる当日になって、日本武道館で開催されるワンマンを見に行く気分になった。僕は虹コンのことを何も知らなさすぎて、その日は根本さんがほぼ出演しないことも知らなかった。虹コンはメンバーカラーが虹にちなんで7色で、当時は各色2人ずつの14人メンバーがいたのだが、ステージ上に緑色の衣装が1人しかいないことに気づいた時は本当にびっくりした。まさか根本さんが本編に一度も出てこないとは知らず、根本さんを見つけたら振ろうと、点灯させたまま膝の上に置いた緑色の光だけが僕がそこにいる理由だった。ペンライトを灯台のように感じることがあるのだと初めて知った。
アンコール1曲目、やっぱり根本さんがいないまま披露された新曲「さよならタイガー」は抜群に良かった。これからの虹コンにどれだけのことができるのかを提示するためのライブだったことを、あらかじめ全観客に共有されていたはずの前提を、何も知らない僕でも飲み込めたのは、この曲のおかげだった。アイドルヲタクにとって虎という語彙が意味するものは複雑で、タイガーマスクのように腕組みしてアイドルを見守るスタンスを指し、あるいは楽曲のイントロで発声されるコールとしてアイドルとの出会いを指し、転じて別れのことを指す。タイガー締め、タイガーリムーブなどのラストライブのためだけに存在するヲタ芸もあるくらいだ。そんなこととは一切関係なしにアイドルから発せられるさよならタイガーという言葉は、何を言ってるかより聴き手にどう響くかだけが大切な時間があるんだということを存在を信じさせてくれた。
僕が勘違いしていただけで、ラストライブは昨日で、もう出ないのかもしれないと思いながらアンコールを見ていたら、最後の最後でやっと今日の目当ての根本さんが登場した。「トライアングル・ドリーマー」と「世界の中心で虹を叫んだサマー」の2曲のみのパフォーマンス参加だった。根本さんのいない虹コンを見ている間は、歌割りのタイミングの子がプリンシパルとして振る舞い、他の子達はアンサンブルとして振る舞うことが演出として徹底されているタイプのグループとして見ていた。歌割以外の子が悪目立ちしなくて、基本的にセンターで歌うから見やすいパフォーマンスだなと思っていた。しかし根本さんが入ると、演出的にダイナミクスをつけなくても自然とその瞬間の主役になるメンバーがパワフルに飛び出てくるグループに変貌した。それまで数十曲見てきての印象をたった2曲でひっくり返され、最後だけ出てきてくれたことによって、そして今アイドルとして振る舞う私について歌う「世界の中心で虹を叫んだサマー」が最後の曲だったことによって、何が今日終わったのかをこれでもかと理解できてしまった。
根本さんのラストライブが終わって、僕が虹コンを見に行く理由はもうなくなった。でも虹コンがどんな音楽をやっていたのか知りたいと思ったので、サブスクにある虹コンの音源を全部聴いた。そこにあふれた、すこし無理がある、いつか倒れて大けがをすることがわかっている全力疾走をながめていような明るさは、演者と空間を共有する体験としてなら、あるいはその思い出と結びついたものとしてならともかく、サブスクリプションで初めて聴くのにはすこし辛かった。
そんななかで「終末でーと部!」は違和感なく聴けた数曲のうちのひとつで、「さよならタイガー」と同じ、けんたあろはによる提供曲だった。終わりを歌うことによって、逆説的に続けていく、続いていくことを信じられることもある、そんなことを感じさせてくれる楽曲がある。けんたあろはの提供曲を聴くと毎回そういう気分になることに気づき、今年、柏木ひなたが去る「私立恵比寿中学」にも曲を書いてくれてないかなと思っていたら、本当に書いていた。「さよなら秘密基地」 「新未来センセーション」の2曲がそうだった。
20220610
エビ中はとにかくサブスク映えするグループで、アイドル楽曲をサジェストされるままてきとうに流していて、やたら良い曲が流れてスマホの画面を見たらエビ中だったことがサブスクの隆盛以降に何度あったかわからない。そんなに良いならちゃんと聴けばいいのに、最近の曲を全然知らないままなことがずっと気になっていたので、虹コンを全曲聴いた勢いでエビ中も全曲聴き、6月10日のホールツアーのチケットをとった。エビ中の単独ライブを見に行くのは10年ぶりだった。
これは正直に書くんだけど、僕の当時のメモにはその日のベストアクトが「イエローライト」だったと書き残してあったし、いま聴いても良い曲だなと感じるものの、具体的な理由を全然覚えていない。でもこれは逆転していて、ライブで見るまではあえて挙げるほど好きな曲というわけではなかったのだろう。音源と自分の関係を決定的に変化させてくれる場としてライブがあるなら、理想的な体験をしたのかもしれないとすら思う。アイドルのファン活動は思い出作りの側面が強く出がちになるけれども、そうではない態度でライブを見に行き、また音源を聴く営みに戻ることが可能なのは素直に喜びたい。これからの10年でもまた、エビ中の音源に出会いたいなと思う。
20220807
今年の夏も、TIFこと「TOKYO IDOL FESTIVAL2022」の会場には足を運んだ。いつも見ている子たちの晴れ舞台を見る、という大規模フェスへのモチベーションを僕はもう失っていて、その意味では目当ての演者はいなかった。ただ「おにぱんず!」が見たかった。「鬼ヤバッ!」のイヤホンで聴いていても笑ってしまうベースの音が、屋外のライブでどう響くかが知りたかった。
おにぱんず! はこの日、2曲しかないオリジナル曲に加えて、事務所の先輩「可憐Girl’s」の代表曲「Over The Future」をカバーしたが、さほど観客に伝わっておらず、誰でも知ってるフロアアンセムだった時代がとっくにおわっていたことをを知った。「鬼ヤバッ!」にもそういう曲になるポテンシャルあったと思うんだけどな。
フジテレビ屋上ステージ、スカイガーデンでの出番が近かったので、アニメ『東京ミュウミュウにゅ〜』のキャストユニット「Smewthie」も見ることができた。どちらかと言えばアイドル現場向きかなと思っていた「Resolution of colors」をセットリストから外す選択が面白かった。
20220802
この日は夏の恒例イベント、テレビ朝日・六本木SUMMER STATIONに出演する「iScream」 「Girls²」を見るために、夕方のテレビ朝日社屋へ行った。今年、アルバムという単位でいちばん聴いてたのはiScreamの1stアルバム『i』だった。同じ事務所に所属し、同じオーディションから選抜されたメンバーも所属しているGirls²は、レコード会社と契約しているので定期的にCDを出しているが、iScreamはLDHの自社レーベルに所属し、楽曲自体はどんどん増えていくものの全てデジタルリリースの形をとっていて、デビューから2年経ったが物理リリースはなかった。ファンが音源を物理的に手に取ることができたのは、今年発売されたこのアルバムが初めてだった。
この夏、各地のお祭り等に出演していたiScreamが、物理メディアが出なくなって以後いちばん死語になりそうな言い回し「このアルバムを引っ提げて」をMCで口にしていて、10代のメンバーがいまどこで知る語彙なのか不思議だったことは書き残しておきたい。それはともかく、音源がデジタルリリースのみなのは完全に当たり前になりつつあって、「わたしの一番かわいいところ」がtiktokで大流行したアソビシステムの「FRUITS ZIPPER」もデジタルリリースのみ。スターダストプロモーションの「MISS MERCY」はららぽーとやレイクタウンのイベントスペースで行うフリーライブをリリースイベントと銘打っておこなっているが、これもデジタルリリースに合わせたイベントで、物販ではアクリルスタンドを中心としたグッズ類のみが販売されている。
そもそもリリースという感覚がなく、ライブで披露している楽曲がサブスク解禁されたと告知するのみのアイドルのほうが多数派になったのが2022年だったような気もしている。自身も「femme fatale」としてユニット活動している戦慄かなのが、完全に裏方にまわってプロデュースしている「erehwon」等、Nプロ所属のグループが自社からCD音源を出しているのは、プロデュース側の明確な意思でのリリースで、なんとなく出すものだから出すという形でCDが出ることはもうないのだろう。
20221230
アイドルがなんとなくCDを出し、ファンがなんとなく同じCDを何枚も買う季節が終わったことに、残念な気持ちは特に持っていない。ただ、最近こんなグループを僕は見ているよと知人に伝えるときに、CDを渡す習慣が染みついてしまっていて代替手段がまだよくわかっていない。いや、youtubeやtiktokがそれであることは分かっている。でも他にも考えたい。そういう気持ちを紙の束に変換して渡したかった。Spotifyの検索タブにある撮影ボタンを押して文中に埋め込んだ共有コードを読み込むというワンステップが圧倒的に遅いことはわかっているけれど、とりあえずいまのところはこういう形になった。今回はこれを受け取ってもらえると嬉しい。
20221230 木山茜
上綴じの紙束。グループ名と曲名の部分にspotifyアプリで読み取れる共有コードの画像を埋め込んでいた。タイトルの誤植に今気づいた。CD大量買いは、2025年現在はK-POPで復活してしまっている。意外と滅びないままだな。